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地方行政における
生物多様性地域戦略の可能性と
その課題
20150321
橋本佳延
(兵庫県立人と自然の博物館 主任研究員)
生態系管理専門員会フォーラム
これからの生態系管理―攻めの一手を考える
生物多様性地域戦略の必要性
• 生物多様性の保全
と持続可能な利用
のための自治体の
方針
自治体の地域戦略策定は時代の要請
1992年 生物多様性条約
1995年 生物多様性国家戦略
2002年 新・生物多様性国家戦略
2007年 第三次・生物多様性国家戦略
2008年 生物多様性基本法
→地方自治体に策定努力を課す
2010年 生物多様性国家戦略2010
2010年 第10回生物多様性条約締約国会議
(COP10) 開催
地域戦略は生物多様性基本法に
基づく法定計画
• 第五条 地方公共団体は、基本原則に
のっとり、生物の多様性の保全及び持続
可能な利用に関し、国の施策に準じた施
策及びその他のその地方公共団体の区域
の自然的社会的条件に応じた施策を策定
し、及び実施する責務を有する。
地域戦略は生物多様性基本法に
基づく法定計画
• 第十三条 都道府県及び市町村は、生物多
様性国家戦略を基本として、単独で又は共同
して、当該都道府県又は市町村の区域内にお
ける生物の多様性の保全及び持続可能な利用
に関する基本的な計画(以下「生物多様性地
域戦略」という。)を定めるよう努めなけれ
ばならない。
生物多様性戦略策定を
地方自治体に求められてる!
どんな内容のものを?
良質な生態系サービスを
持続的に住民に届けるために
生物
生物環境
生態系
第1の危機
第2の危機
第3の危機
生
物
多
様
性
供
給
調
整
文
化
生態系サービス
マネジメント
(生態系管
理)
資
本
・
資
産
運
用
利
益
リ
ス
ク
つまり、地域戦略の役割
は・・・
• 生態系サービスの源である
生物多様性を守る
• 枯渇しないように管理する保全
• 生態系サービスを効果的に
住民(法人も含む)に届け
る活用
方針・目標の共有
課題の明確化
協働の促進
活動の相乗効果
地域戦略は、生物多様性の取り組みを
より有効に機能させる可能性を秘めてい
る
地域戦略は生物多様性の視点で
住民の福利を考えるきっかけとな
る
• 戦略の最終的な目的は、生物多様性の保全・
活用ではなく、住民の幸せを生物多様性の視
点から実現すること
生物多様性 × ○ ○ =住民の幸せ
となる○○を考える
※この式に従えば、生物多様性が損なわれれば、
当然、住民の幸せも損なわれる!
自治体で共有できるコンセプトを探
す
• 生物多様性 × ○○ の○○には、
自治体全体で共有できる言葉、コ
ンセプトを1つは用意しておくと、
協力が得やすい。
例えば・・・
兵庫県豊岡市の「コウノトリ」
兵庫県西宮市の「環境学習」
兵庫県加古川市の「ウエルネス(健康)」
生物多様性を住民の福利につなげるには
様々な分野・主体の参画が必要
分野横断的な、地域ぐるみの取り組みを支
える
研究者・生態学者もその1
人
国内での地域戦略の策定状況
• 全国で32都道県が策定済み
• 5府県で策定中
• 生物多様性「保全」戦略と
いう位置づけのものが多い
が、「持続可能な利用」を
視野に入れている戦略も増
えてきている
図 都道府県版生物多様性戦略の策定
状況(平成27年2月末現在)
地域戦略の策定のフェーズは、
基礎自治体(市町村)に
移行している!
しかし、中小自治体は戦略策定に
取り組みにくい状況に置かれてい
る
人員不足
知識不足
予算不足
戦略策定への
モチベーション低下
困難を克服する
ためには
何が必要か?
法律や強い外圧で
「策定しろ!」
では進まない実態
戦略策定着手前に自治体内で渦巻
く
疑問、ネガティブな意見
• 「市町村での戦略策定は努力義務であって策定義務でない」
• 「既存の計画・施策で十分(戦略でしかできないことがある
か?)」
• 「策定しても運用できるだけの状況にない」
• 「庁内外での関心が低い」
社会環境が
整っていない
• 「戦略の効果を数値的に測定
することが困難」
既存戦略で未
解決の課題の
指摘
• 「管轄できる自然地域が
存在しない」
庁内環境が
整っていない
• 「担当者として生物多様性戦略の策定の必要性に
確信が持てない」
• 「庁内各部局を網羅するような戦略にする必要は
ないのでは?」
必要性を
感じない
• 「戦略のような総花的で固い行
政文書は市民参画をかえって妨
げる」
戦略策定
は有害
策定できない理由があることを
市民に知ってほしい
不安の裏返し
地域戦略策定促進の一手
障害・不安
を
取り除くこ
と
課題 着手前の不安を取り除く
疑問・不
安の解消
既存の計画と生物多
様性戦略の性質の違
いを明確化
自治体にとっての戦略策
定の利点を担当者に提供
策定を円滑に進めるため
の下準備・環境整備
戦略策定の
促進
課題:策定体制をどうするか?特に委員
会
専門委員会の
設置は必要?
• 人脈がない
• 地域の専門家が不在
• 専門性を判断できない
• 委員同士の対立は起こ
らないか?
委員の適切な
人選方法は?
第三者機関に
よる学識経験
者や専門家を
自治体に紹介
する制度(ア
ドバイザー制
度)の充実化
課題 対策
準備期
課題:戦略の特色化
既存戦略の概要
や特徴、共通点
をまとめた情報
の提供
法定計画(総合計
画や環境基本計画
など)と戦略の性
質の違いについて
のわかりやすい解
説の必要性
• 「具体的な施策がイメージで
きない」
• 「独自性をどう検討すればよ
いかプロセスがわからない」
• 「他市とは異なる独自性をど
う示せばよいかわからない」
他の自治
体戦略と
の差別化
• 似たような計画が乱立他の方手
計画、既
存計画と
の差別化
課題 対策
準備期
課題:戦略策定にどの程度の情報が必要
か?
• 策定時に生物情報
を網羅することは
現実的には不可能
戦略策定時
に生物調査
は必要か?
• どうアクセスした
らよいか分からな
い
• 既存情報が十分で
ない可能性がある
既存資料に
アクセスで
きるか?
最低限どのよう
な生物情報がど
の程度必要であ
るかのガイドラ
イン
既存情報に容易
にアクセスでき
る環境の整備
課題 対策
準備期
戦略策定・推進の課題
• 生物多様性については説明するのが
難しい。
• 関係者に理解して貰えるか不安。理解不足
• 相談相手(専門家、庁内の仲間な
ど)の不在
支援不足
• 策定作業を円滑に進めるための資源
不足よりも、策定後に運用するため
の予算に関心が向けられる傾向資源不足
戦略策定促進に必要なこと
戦略
策定促進
資源不足
への対応
行政担当
者のバッ
クアップ
普及啓発
連携の
環境整備
予算不足→国による補助事業の拡充・目的税創設
人員不足→日頃からの外部との連携の構築
知識の提供
不安の解消
経験の共有の
場の構築
研修会の充実
行政担当者向け
のテキスト
親身になって相談
にのってくれる
専門家
情報不足→専門機関等へ情報アクセスできる環境
の整備
庁内
市民企業
他自治体 生態学者が活躍でき
る場所はココ
時間があれば・・・以下、発表しま
す。
研究者(学会)が
果たせる役割
知識・手段の提供
①講習会の定期実施
議論のために必要な
生物多様性や戦略に
ついての基礎的な
知識を共有する
知識・手段の提供
②専門家として
行政への知識提
供・具体的な助
言
情報整理の手法提供
~ギャッ
プ分析
• 生物多様性の保全と持続可能な
利用の実現の理想像と、現実と
の違い(ギャップ)を出来るだ
け明確にしていく。
• ギャップがわかれば、それを埋
めるために何をすれば良いかが
わかる。
• 実際に実施出来るかどうかはま
た別の話。しかし、知っておく
ことが大切。
理想
現実
どう埋め
る?
情報整理の手法提供
~生物多様性情報の共有
• 情報を地図と結びつ
けることで、よりリ
アルに現場の環境を
イメージし計画を考
えることが出来る。
• 文章だけでは共有し
にくい情報が共有で
きる。
• 流山市の戦略は計画
を次図上で表現する
ことに力を入れてお 生物多様性ながれやま戦略より
環
境
様々な主体をつなぐヨコ糸の役
割
教
育
河
川
部
局
農
林
部
局
都
市
計
画
観
光
生物多様性 生物多様性は様々な行
政分野に関わっている
ので、環境セクション
だけでは対応が出来な
い。
横のつながりを密にし、
生物多様性の課題に関
われるような体制づく
りを策定時から整える
ことが大切。
行政が苦手とするところ。
中立性の高い研究者が活躍で
きるポイント
普及・啓発活動への協力
多様な主体の参画による戦略
策定推進には、議論の土台と
なる生物多様性の基礎知識や
考え方をわかりやすく伝える
専門家の手助けが必要。
学会の次の一手の選択肢
• 生物多様性についてアドバイスできる学会員
の紹介
– 専門家リストを広く公表(どう、リストを作成す
るかは課題)。
– リストに掲載された会員同士の相互参照を深め、
アドバイザーとしての資質を高め合う。
• 普及・啓発に協力してくれる学会員の紹介
– さまざまなイベントで講師役となる学会員の紹介
学会の次の一手の選択肢
• 生物多様性に関す
る知識のパッケー
ジ化
– 行政担当者・市民
に伝わる表現で書
かれた書籍
– 定期的な生物多様
性に関する講習会
の開催(他の機関
開催の相乗りでも
より)
学会の次の一手の選択肢
• 生態学・生物多様性を
学んだ人材の輩出・交
流
– 様々な業種、ポジショ
ンで生態学を学んだ若
手人材が活躍できるよ
う、その橋渡しを行う
→若手キャリア形成
– 輩出された人材同士の
定期的交流の機会の提
供(学会もその1つだ
が年度末開催は厳しい
側面も)
学会の次の一手の選択肢
• 生物多様性の主流化に向けた学会として
の行動戦略の策定
– 中長期的な視野で。
– 組織的に動ける内容で。
– 予算はなるべくかけないで。
– 学会としてのメリットも意識して→透けて見
えると外部からの信頼は失われる、かも。
地方行政における生物多様性地域戦略の可能性とその課題
完璧を追い求めるよりも
適宜見直しを念頭に
• 生物・環境は刻々と変
化する。
• 戦略を運用する主体も
変化する。
• 一回で完璧な計画を作
ろうとせず、継続的に
改善を図れるような仕
組みを作って置く方が
重要
• 兵庫県神戸市は戦略の
進捗をモニターする委
員会を設置している→
改善意見が必ずしもリ
Plan
DO
Check
Action
本当に出来るようにする!

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