SlideShare a Scribd company logo
1 of 22
Download to read offline
日常生活で利用するSNSでみられる
名乗りについて
2013年9月13日
折田明子
関東学院大学 人間環境学部
oritako@kanto-gakuin.ac.jp
1
※本研究の一部は科研費若手B(24700250)の助成を受けています
本発表の流れ
• 本発表の目的
• 背景:SNS利用と名乗り
• 調査のリサーチクエスチョン
• 調査結果・考察
• 今後の課題
2
本発表の目的
一般に、インターネット上のコミュニケーション
は匿名性が高いと言われているが、今でもそうだ
ろうか?
首都圏の四年制私立大学1年生を対象にしたアン
ケートの結果を紹介する
3
日常的に利用されているSNSサービスにおい
て、
実名・仮名(ハンドル)・匿名といった名
乗りや、
名乗り分けがどのようになされているかを
探索的に明らかにする
インターネット上のコミュニケーショ
ンに
おける匿名性
• 視覚的匿名性 (Visual Anonymity)
– 相手の顔が見えない状態。個人的属性への手がかり
が減少する。 (Joinson,2003)
– 自分自身に関して詳細に記述する傾向。
(Wallace,1999)
• 仮名あるいは匿名の利用 (Pseudonymity or
Anonymity)
– 実名を秘匿し、別の名前を名乗る
(c) 2013 Akiko Orita 4
背景:インターネット利用時の不
安
5(c) 2013 Akiko Orita(出典)総務省「平成24年・平成25年情報通信白書」をもとに作
成
0.2
2
6.9
8
17.3
29.3
38.4
42.4
61.9
69.6
71.6
2.2
6.3
7.5
17.0
29.7
38.5
42.0
61.6
72.8
72.6
1.9
6.0
7.2
12.8
23.6
36.4
39.1
59.3
72.2
71.0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
無回答
その他
送信した電子メールが届くかどうかわからない
知的財産の保護に不安がある
認証技術の信頼性に不安がある
違法・有害情報が氾濫している
セキュリティ脅威が難解で具体的に理解できない
電子的決済手段の信頼性に不安がある
どこまでセキュリティ対策を行えばよいか不明
ウイルスの感染が心配である
個人情報の保護に不安がある
世帯におけるインターネット利用で感じる不安(複数回答)
平成24年(n=7,021)
平成23年(n=5,842)
平成22年末
背景:個人情報保護の対策
6
(出典)総務省「平成24年、25年情報通信白書」をもとに作成
(c) 2013 Akiko Orita
7.7
23.0
69.3
19.2
21.1
59.7
25.5
74.5
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0
無回答
何も行っていない
何らかの対策を実施 平成24年末(n=14,180)
平成23年末
(11,731)
平成22年末
平成21年末
2.0
19.0
25.0
26.7
37.4
46.7
1.3
18.9
20.8
22.6
32.8
39.6
1.9
19.3
25.5
28.4
41.0
51.1
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0
その他の対策
スパイウェア対策ソフトを利用
クレジットカード番号の入力を控える
懸賞等のサイトの利用を控える
軽率にウェブサイトからダウンロードし
ない
掲示板等のウェブ上に個人情報を掲載し
ない
平成24年末(n=14,180)
平成23年末
(11,731)
平成22年末
平成21年末
背景:主な利用目的としてのソーシャ
ルメディア
(c) 2013 Akiko Orita 7
総務省 平成25年情報通信白書より
背景:ソーシャルメディアにおける
実名・ハンドル利用率
8
20.9
7.2
4.0
48.3
40.4
27.6
30.8
52.4
68.4
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
SNS(mixi、Facebook等) (n=1,024)
Twitter
(n=681)
ネット上の
掲示板
(n=450)
ハンドルネーム
(現実世界のあなたとハンドルネームが結びついていない場合)
ハンドルネーム
(サイトの親しい人の中では現実世界のあなたとハンドルネームが結びついている場合)
実名
総務省 平成23年情報通信白書をもとに作成
背景:ソーシャルメディア利用の
不安
(c) 2013 Akiko Orita 9
80.5
71.3
66.6
64.1
56.4
53.7
50.8
48.1
36.2
80.2
71.4
66.3
63.7
55.0
52.0
49.6
46.2
34.4
86.5
75.0
73.4
69.7
61.5
59.0
56.1
53.3
41.4
76.7
71.6
67.0
60.8
59.1
55.1
52.3
51.1
41.5
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0
自分の個人情報が漏えいする
自分の個人情報を他人に不正に利用される
プライバシーを侵害される
スパムメールが届く
自分の個人情報が消せない
自分の個人情報や使用履歴を使っておすすめ…
自分の情報が他人に改ざんされる
ネットいじめ・炎上にまきこまれる
相手との関係が悪化する
Twitter(n=176) ブログ(Amebaブログ、Yahoo!ブログ等)(n=244) SNS(mixi、Facebook等)(n=738) 全体(n=1,361)
ソーシャルメディアの基本機能
基本機能
1. プロフィール
– ソーシャルグラフ含む
2. ユーザ検索
3. ブログ/タイムライン
– 公開範囲は選択可能
4. コミュニティ
– あるいはグループ機能
5. メッセージ送受信
(c) 2013 Akiko Orita
津田大介「動員の革命〜ソーシャルメディアは何を変えたのか」中公ラクレ(
主なソーシャルメディアのメディ
ア特性
• Twitter
– 利用者が「つぶやく」
– 名前は何でもよいが、なりすまし防止のVerified Accountあり
• それをフォローする
• Facebook
– プロフィールをつないでいく
– 実名利用を原則とする
– 元は学生どうしの「写真名簿」
• その上でやりとりする
• LINE
– 電話帳に登録した相手と無料通話をする
• 通話に加えてトーク、グループトークも
– メッセージの既読表示、スタンプの利用
(c) 2013 Akiko Orita 11
大学生のSNS利用と名乗りの調査
リサーチクエスチョン
RQ1 : SNSの利用用途と名乗りは、どのような関係
にあるのか。匿名性は保たれているのか。
RQ2: SNSの主な交流相手と名乗りは、どのような
関係にあるのか。匿名性は保たれているのか。
RQ3: SNSの利用において、どのように名乗り分け
がなされているのか。
12
調査概要
日時 2013年7月11日(木)
調査対象 四年制私立大学人間環境学部所属 1 年生
必修科目(
ン) 履修者
回答者数 72(配布数 86 部.有効回答率 83.7%)
回答者内訳 男性 46 名(63.9%) 女性 26 名(36.1%)
調査方法 質問紙による調査
13
利用開始時期およびデバイスに関しての質問
LINE, Twitter および Facebookについての個別質問
複数サービスにおける名乗り分けに関する質問
回答者の背景
利用デバイス(複数回答)
91.7%
56.9%
38.9%
29.2%
5.6% 4.2%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
インターネット利用開始時
期
• ネット利用
– 小学生 58.3%
– 中学生 33.3%
– 高校生 8.3%
• 個人メールアドレス取得
– 小学生 36.6%
– 中学生 50.7%
– 高校生 2.8%
14
用途、交流相手、名乗りにおいていずれにおいても有意差みられず
利用しているソーシャルメディアと名
乗り
利用の有無(複数回答) 各サービスでの名乗り
15
94.4%
86.1%
54.2%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
LINE Twitter Facebook
利用の有無に関して,インターネット利用開始時期,
性別による有意差は無し
43.9%
26.2%
56.4%
48.5%
54.1%
43.6%
12.1%
27.9%
7.7%
LINE
Twitter
Facebook
本名
本名が分かるニックネーム
本名が分からないニックネーム
用途と名乗り
16
30.3%
39.1%
30.8%
34.8%
46.1%
63.5%
81.8%
13.9%
5.8%
43.9%
26.2%
56.4%
48.5%
54.1%
43.6%
12.1%
27.9%
7.7%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
LINE Twitter Facebook
情報を発信する
友人の情報を得る
連絡手段
本名
本名が分かるニック
ネーム
本名が分からないニッ
クネーム
交流相手と名乗り
17
98.5% 96.8% 97.4%
17.9%
33.9%
17.9%
7.5%
41.9%
12.8%
43.9%
26.2%
56.4%
48.5%
54.1%
43.6%
12.1%
27.9%
7.7%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
LINE Twitter Facebook
リアルの友人
ネットの友人
有名人を見る
本名
本名が分かるニック
ネーム
本名が分からないニッ
クネーム
複数サービスにおける名乗り分け
18
64.1%
34.6%
52.3%
35.9%
65.4%
47.7%
男性
女性
全体
複数サービスで同じ名前 サービスごとに変えている
性別のみ有意差(5%水準)あり。
利用開始時期、利用デバイス、サービスによる違いはなし。
考察 (1/3)
RQ1 : SNSの利用用途と名乗りは、どのような関係にあ
るのか。匿名性は保たれているのか。
• 本名による利用割合が最も高いのはFacebook
– 実名利用ルール、検索して見つけられる名前
• LINEは電話帳をベースにしているので、もともと相
手が分かっている上ではないか
• Twitterは「本名が分からない」名前の利用割合が高
い
– 情報の受発信が主な目的
– 匿名性が、情報発信の障壁を下げている可能性もあるか?
19
考察 (2/3)
RQ2: SNSの主な交流相手と名乗りは、どのような
関係にあるのか。匿名性は保たれているのか。
• いずれのサービスも、「リアルの友人」が主な
交流相手で、「本名が分かるニックネーム」の
利用割合が高い
• Twitterは、3つの中でもっとも匿名性の高い使わ
れ方をされており、「リアルの友人」以外の対
象も含まれている
20
考察 (3/3)
RQ3: SNSの利用において、どのように名乗り分け
がなされているのか。
• 「同じ名前」「その都度変える」は、全体では
ほぼ半々
• 性別のみ有意差:女性は「その都度変える」が
多い
• 名乗り分ける=リンク可能性を減じ、匿名性が
高くプライバシーも守られる
21
おわりに
• インターネットを介したコミュニケーション
は、匿名性が高いと言われていたが、大学生を
対象とした日常生活で利用するSNSでは、匿名性
の低い使われ方がなされている
– 本人の特定につながる名乗りが多数
– 半数は同じ名前を名乗り続ける
• 今後の課題
– ネットと匿名性、人間関係に対する感覚と実際の行
動の関連についても明らかにする
• もはやネットは内輪のものかもしれない?
– 個人情報やプライバシーを守りつつ安全に利用する
ための方向性を考察したい
22

More Related Content

Similar to 日常生活で利用するSNSでみられる名乗りについて(IPSJ DPS156/GN89/EIP61)

コミュニティカレッジさくら20150531
コミュニティカレッジさくら20150531コミュニティカレッジさくら20150531
コミュニティカレッジさくら20150531義広 河野
 
河野ゼミ紹介2014
河野ゼミ紹介2014河野ゼミ紹介2014
河野ゼミ紹介2014義広 河野
 
河野ゼミ紹介2013
河野ゼミ紹介2013河野ゼミ紹介2013
河野ゼミ紹介2013義広 河野
 
デジタルネイティブ世代の生活価値観とソーシャルメディア
デジタルネイティブ世代の生活価値観とソーシャルメディアデジタルネイティブ世代の生活価値観とソーシャルメディア
デジタルネイティブ世代の生活価値観とソーシャルメディアMasaya Ando
 
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」亮介 西田
 
東京情報大学キャンパス体験会20130921
東京情報大学キャンパス体験会20130921東京情報大学キャンパス体験会20130921
東京情報大学キャンパス体験会20130921義広 河野
 
おおた区民大学人権塾2013講演資料20140212
おおた区民大学人権塾2013講演資料20140212おおた区民大学人権塾2013講演資料20140212
おおた区民大学人権塾2013講演資料20140212義広 河野
 
ソーシャルメディア活用術とパーソナルブランディング(後編)20130808
ソーシャルメディア活用術とパーソナルブランディング(後編)20130808ソーシャルメディア活用術とパーソナルブランディング(後編)20130808
ソーシャルメディア活用術とパーソナルブランディング(後編)20130808義広 河野
 
Twitter社心名古屋2011公開用
Twitter社心名古屋2011公開用Twitter社心名古屋2011公開用
Twitter社心名古屋2011公開用Kyoko Kato
 
社会情報学会発表資料20120914
社会情報学会発表資料20120914社会情報学会発表資料20120914
社会情報学会発表資料20120914義広 河野
 
第1回ソーシャルメディア講義20111129
第1回ソーシャルメディア講義20111129第1回ソーシャルメディア講義20111129
第1回ソーシャルメディア講義20111129義広 河野
 
公式Webサイトとソーシャルメディアの使い分け
公式Webサイトとソーシャルメディアの使い分け公式Webサイトとソーシャルメディアの使い分け
公式Webサイトとソーシャルメディアの使い分け義広 河野
 
第6回デジタルシニア養成講座20130625
第6回デジタルシニア養成講座20130625第6回デジタルシニア養成講座20130625
第6回デジタルシニア養成講座20130625義広 河野
 
川崎市における 環境情報・写真データを用いた コミュニティ活性化の研究
川崎市における 環境情報・写真データを用いたコミュニティ活性化の研究川崎市における 環境情報・写真データを用いたコミュニティ活性化の研究
川崎市における 環境情報・写真データを用いた コミュニティ活性化の研究Masahiko Shoji
 

Similar to 日常生活で利用するSNSでみられる名乗りについて(IPSJ DPS156/GN89/EIP61) (20)

コミュニティカレッジさくら20150531
コミュニティカレッジさくら20150531コミュニティカレッジさくら20150531
コミュニティカレッジさくら20150531
 
河野ゼミ紹介2014
河野ゼミ紹介2014河野ゼミ紹介2014
河野ゼミ紹介2014
 
河野ゼミ紹介2013
河野ゼミ紹介2013河野ゼミ紹介2013
河野ゼミ紹介2013
 
デジタルネイティブ世代の生活価値観とソーシャルメディア
デジタルネイティブ世代の生活価値観とソーシャルメディアデジタルネイティブ世代の生活価値観とソーシャルメディア
デジタルネイティブ世代の生活価値観とソーシャルメディア
 
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」
 
東京情報大学キャンパス体験会20130921
東京情報大学キャンパス体験会20130921東京情報大学キャンパス体験会20130921
東京情報大学キャンパス体験会20130921
 
おおた区民大学人権塾2013講演資料20140212
おおた区民大学人権塾2013講演資料20140212おおた区民大学人権塾2013講演資料20140212
おおた区民大学人権塾2013講演資料20140212
 
ソーシャルメディア活用術とパーソナルブランディング(後編)20130808
ソーシャルメディア活用術とパーソナルブランディング(後編)20130808ソーシャルメディア活用術とパーソナルブランディング(後編)20130808
ソーシャルメディア活用術とパーソナルブランディング(後編)20130808
 
Twitter社心名古屋2011公開用
Twitter社心名古屋2011公開用Twitter社心名古屋2011公開用
Twitter社心名古屋2011公開用
 
b09_2022sli_【大谷短】コミュニケーション心理ゼミ確定版.pdf
b09_2022sli_【大谷短】コミュニケーション心理ゼミ確定版.pdfb09_2022sli_【大谷短】コミュニケーション心理ゼミ確定版.pdf
b09_2022sli_【大谷短】コミュニケーション心理ゼミ確定版.pdf
 
社会情報学会発表資料20120914
社会情報学会発表資料20120914社会情報学会発表資料20120914
社会情報学会発表資料20120914
 
b09_2022sli_【大谷短】コミュニケーション心理ゼミ.pdf
b09_2022sli_【大谷短】コミュニケーション心理ゼミ.pdfb09_2022sli_【大谷短】コミュニケーション心理ゼミ.pdf
b09_2022sli_【大谷短】コミュニケーション心理ゼミ.pdf
 
第1回ソーシャルメディア講義20111129
第1回ソーシャルメディア講義20111129第1回ソーシャルメディア講義20111129
第1回ソーシャルメディア講義20111129
 
公式Webサイトとソーシャルメディアの使い分け
公式Webサイトとソーシャルメディアの使い分け公式Webサイトとソーシャルメディアの使い分け
公式Webサイトとソーシャルメディアの使い分け
 
20110422waseda
20110422waseda20110422waseda
20110422waseda
 
20110422waseda
20110422waseda20110422waseda
20110422waseda
 
20110422waseda_gazou
20110422waseda_gazou20110422waseda_gazou
20110422waseda_gazou
 
第6回デジタルシニア養成講座20130625
第6回デジタルシニア養成講座20130625第6回デジタルシニア養成講座20130625
第6回デジタルシニア養成講座20130625
 
最終報告会
最終報告会最終報告会
最終報告会
 
川崎市における 環境情報・写真データを用いた コミュニティ活性化の研究
川崎市における 環境情報・写真データを用いたコミュニティ活性化の研究川崎市における 環境情報・写真データを用いたコミュニティ活性化の研究
川崎市における 環境情報・写真データを用いた コミュニティ活性化の研究
 

日常生活で利用するSNSでみられる名乗りについて(IPSJ DPS156/GN89/EIP61)