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「ユーザビリティエンジニアリング(第2版)」無料サンプル版(第2章全文)
- 2. は し が き
本書は『ユーザビリティエンジニアリング』
(オーム社刊)の第 2 版です。
2005 年発行の初版は、その実践的な内容が好評を博し、8 年間で 9 刷まで増
刷を重ねる「ロングセラー」となりました。
そして、昨年、第 2 版を執筆することが決まったのですが、その時に、私
は製品やサービスのバージョンアップと同じようなリスクがあると感じまし
た。それは、付加的な機能や直近の先端技術をてんこ盛りにする一方、本質的
な価値をもたらす機能や特徴を不用意に変更 / 削除してしまうと、ユーザ(読
者)から「前の方がよかった」と言われることです。
そこで、今回は以下の 3 点を念頭に置いて執筆を進めました。
◎内容や特徴の継承:初版の内容の 7 割は、ほぼそのまま引き継いでいます。
そのうえで、同じくらいの分量の新たなコンテンツを追加しました。また、
「謝礼の金額まで書いてある」
「現実的な落としどころを書いてある」と好評
だった実践的な内容や、平易で読みやすい文体を改めて心掛けました。
◎変化への適応:初版を執筆した 2004 年頃は、まだ日本ではユーザエクスペ
リエンスという言葉さえほとんど知られていませんでした。iPhone は存在
しておらず、アジャイル開発やリーンスタートアップ(顧客開発モデル)の
潮流は極々小さいものでした。それから 10 年が経ち、私たちを取り巻く環
境は大きく変化しています。本書では 2010 年代の製品やサービス開発に適
応する内容を目指しました。
はしがき
iii
- 3. ◎読書体験の向上:読みやすさのために段落間に空白行を入れました。また、
1 つの章の分量を 20~30 ページ程度に抑えたので気軽に読み進められるで
しょう。ただ、章の数が増えて相互の関連性が把握しづらくなるといけない
ので、全体を大きく三部構成として、それをページ右端の「ツメ(タブ)
」
で示すようにしました。また、イラストレータの中西隆浩氏の手による挿絵
の数々は、内容の理解を深めるとともに読む楽しさを提供してくれます。
「ユーザビリティについて学びたいときに、まず最初に手に取るべき 1 冊」
――これは初版に対する書評の 1 つです。その価値を継承・拡大し、この第 2
版も UX / ユーザビリティ分野の定番本として、今後も長く読み継がれること
を願っています。
2014 年 1 月
著者しるす
iv
はしがき
- 6. 6-3 カードソート
121
①階層構造の設計/②クローズド・カードソート/③オープン・
カードソート
Part 3 評 価
Chapter 7 ユーザビリティ評価法
7-1 評価とは
128
①総括的評価と形成的評価/②実践的手法と分析的手法
7-2 ヒューリスティック評価
133
①インスペクション/② 10 ヒューリスティックス/③ヒューリ
スティック評価の実施手順/④ヒューリスティック評価の限界
7-3 認知的ウォークスルー
150
①探査学習/②認知的ウォークスルーの実施手順/③認知的
ウォークスルーの分析例
Chapter 8 ユーザテスト
8-1 ユーザテストとは
156
①ユーザテスト体験記/②ユーザテストの概要
8-2 代表的なテスト手法
159
①思考発話法/②回顧法/③パフォーマンス測定
8-3 ユーザテストの基本理論
169
①ユーザビリティの論理学/②ユーザテストの被験者数/③反復
デザインの効果
8-4 プライバシーと倫理
176
①個人情報保護/②倫理的責任
Chapter 9 ユーザテストの準備
9-1 テスト計画
180
①ユーザテストのスケジュール/②ユーザテストの時間割/③
ユーザテストの費用
目 次
vii
- 8. Column
■ UX とは?
16
■ UX の国際規格
21
■質問は 1 つだけ用意する
38
■もつれた糸を解きほぐす
40
■こんなので役に立つの?
59
■一泊三日
67
■コーディング≠プログラミング
72
■ペルソナ重み付け機能一覧
79
■偽のペルソナ
81
■発想ゲーム
97
■完全なプロトタイプ
103
■オズの魔法使いの使いみち
106
■ UI 設計の秘伝書
154
■共同発見法
162
■ユーザビリティ・アンケート調査法
167
■謝礼の相場
185
■ショーが始まらない
194
■タスクの本質
200
■書画カメラ
218
■インタビュー“マル秘”テクニック
228
■ユーザは本当に「お得」がお好き?
234
■レポートよりも対話を
246
■小さな変更、大きな成果
252
■調査と評価
258
目 次
ix
- 11. Introduction
・
Part 1 調査 分析
ユーザの声の正体
析”
)した結果に過ぎません。そもそも正しく分析されたという保証はありま
せんし、それらを改めて分析しても新たな発見は得られません。
を設計者の手で慎重に分析すれば、ユーザ本人でさえ気付いていない“暗黙”
の要求まで探索することができます。
ユーザの声を聞くというのは、極論すれば単なる“ユーザ任せ”に過ぎませ
Part 3 評 価
一方、個別のユーザの体験はまだ分析されていない生のデータなので、それ
Part 2 設 計
ユーザの声を「V」
、ユーザの体験を「x」とすればその関係は V=f x)
( と表せ
る。ユーザの声とは、自分の体験をユーザ自身で分析した結果に過ぎない。
ん。ユーザから出された「○○が欲しい」といった明示的な要求に応えるだけ
こそ、プロの設計者としての存在価値があるのです。
Ending
では不十分です。ユーザ自身が気付いていないような暗黙の要求まで満たして
aプロフェッショナルの条件
私たち設計者の役割とはユーザに解決案を提案することです。ユーザから提
案してもらって、それを持ち帰るだけならば、それはプロフェッショナルの仕
プロフェッショナルの代表例として、仮に医者を取り上げてみましょう。一
般に医者は患者の言うことを決して“鵜呑み”にはしません。もし患者が「私
2-1 ユーザの声聞くべからず
25
参考文献
事とはいえないでしょう。
- 15. 僕は△△のほ が
う
よかった
と思う。
Introduction
私は○○のほ が
う
よかった
と思う
けど...
私も...
・
Part 1 調査 分析
僕は...
グループインタビュー
グルインは意見が中心のうえ、
他の参加者の影響を受ける。
ります。
この議論の過程を記録・分析することで、テーマに対する多面的な見方と、
Part 2 設 計
で」または「私は××という理由で反対」といった感じで賛否両論が巻き起こ
それがどのように相互に影響を与えながら結論に至るのかが明らかになります
われているグルインは集団面接に近いものが多いです)
。
つまり、グルインで得られる情報の多くは“ユーザの声”になります。もち
ろん、それを補足するような断片的な体験も含まれることはありますが、発言
Part 3 評 価
(ただし米国と異なり日本人はディスカッション下手なので、実際に日本で行
の多くは「ここが不便だと思う」
「こんな機能が欲しい」といったものになり
Ending
ます。しかし、こういった情報が当てにならないことは前述しました。
a 1 人当たり 16 分
もちろん、モデレータが工夫すれば、ユーザの声ではなく具体的な体験を引
き出すことは可能でしょう。しかし、1 人ずつの体験談を詳細に引き出そうと
すると、今度はグループであることがマイナス要因になります。
2 時間というのが標準的です。2 時間の中には、モデレータが話している場面
や無駄な時間も含まれるので、2 時間全部が発言に費やせるわけではありませ
2-1 ユーザの声聞くべからず
29
参考文献
まず、1 人当たりの発言時間が短くなります。グルインは 1 グループ 6 名で
- 16. ん。どんなに効率のよいグルインでも参加者が発言している時間は全体の
80%以下でしょう。そうすると、1 人当たりの発言時間は「2 時間×80%÷ 6
人=約 16 分」に過ぎなくなります。
これでは、簡単な体験談を 1 つ話すのが精一杯です。そもそも、参加者 1
人ずつに順番に話を聞いていくのならば、わざわざ集まってもらう必要はあり
ません。
a脚色されたストーリー
また、グルインでは他の参加者の発言を聞いているうちに、自らの体験を加
工してしまいがちです。
グルインは、
グループダイナミズムを前提としており、
参加者の発言は相互に影響を与えます。そのため、他の人の話を聞いているう
ちに「そういえば、そんなこともあったな」と思うと、そのトピックを自分の
体験談に追加することがあります。
これは、決して悪気があってやっているのではありません。私たちは、人に
話をする時には、なるべく手短に、わかりやすく、同じような話題はまとめて
話すようにトレーニングされているからです。つまり“要点”を伝えようとす
るのです。
“大人”の社会では、ダラダラと出来事を羅列するのは、あまり優
れたコミュニケーション方法ではありません。
それにグルインでは集団の中で発言するので、参加者は普段よりも上手く話
をしようとします。例えば、他の人の話に刺激を受けて自分の話をバージョン
アップしたり、複数の話題を要領よくまとめて要点を絞った話にしたりして、
参加者は嘘にならない範囲で体験を“脚色”するのです。ただ、このような状
況で語られた体験は真実と乖離してしまうのは想像に難くないでしょう。
グルインの達人といわれる人たちは、参加者の“本音”を引き出すのが上手
いといわれています。これは、主にユーザの“声”に基づくマーケティングに
は重要なことですが、ユーザの“体験”に基づくユーザ中心設計にはあまり役
に立ちません。なぜなら、悪い利用体験に対するユーザの本音は「何となく腹
立たしい」だけだからです。
30
Chapter 2 インタビュー法
- 17. ❶
Introduction
2-2
ユーザに弟子入り
師匠と弟子
か? それが「師匠と弟子(Master/apprentice)
」という人間関係モデルに基
づ い た ユ ニ ー ク な 調 査 手 法『 コ ン テ ク ス チ ュ ア ル・ イ ン ク ワ イ ア リ ー
(Contextual Inquiry*2)
』です。
を弟子に“継承”します。基本プロセスは以下のようになります。
1.インタビューアはユーザに“弟子入り”する。
2.ユーザは仕事を見せながら説明する。
Part 2 設 計
この手法ではインタビューアを弟子、ユーザを師匠と見立てて、師匠の体験
・
Part 1 調査 分析
アンケートやグルインといった定番手法は使わない――。では、どうするの
3.インタビューアは、不明な点があればその場でどんどん質問する。
間違っていないかどうかチェックしてもらう。
Part 3 評 価
4. 通り話を聞いたら、
一
インタビューアは理解した内容をユーザに話して、
Ending
* 2 ontextual Inquiry については様々な訳が可能です。文脈における質問、
C
文脈的質問、
文脈的調査、
現地調査、
現地現物、etc...。そのため本書では、敢えてカタカナ表示にとどめました。
2-2 ユーザに弟子入り
31
参考文献
師匠と弟子
ユーザが師匠、インタビューアが弟子。インタビューアはユーザに弟子入りす
るつもりでインタビューする。
- 21. Introduction
・
Part 1 調査 分析
ユーザの習性
ユーザは「無口で気難しい師匠」みたいなもの。
a良い弟子と悪い弟子
師匠と弟子方式のインタビューでは、質問は事前に準備するものではなく、
ユーザと対話する中で自然と沸き上がってくるものです。優れたインタビュー
Part 2 設 計
「良い弟子」になるほうが現実的です。
アはユーザの言うことを懸命に“理解”しようとします。そして少しでも疑問
みます。そういうインタビューを行えば 1 時間くらいは、あっという間に経っ
てしまいます。
一方、多くの初心者インタビューアは、実はユーザの話を真剣に聞いていま
Part 3 評 価
があれば、その場で素直に質問します。その結果、理解が深まり、より話が弾
せん。
“師匠”の話を聞かずにいったい何をしているのかというと、一生懸命
を恐れてそうしているのですが、皮肉にも、そんな自分勝手な(文脈を無視し
た)質問ばかりすると話がかみ合わなくなって、結局、話は続かなくなってし
Ending
「次の質問」を考えているのです。そのインタビューアは会話が途切れること
まいます。実際、初めてのインタビューでは 5 分も話が持たないことは少な
くありません。
です。ユーザの話の冒頭部分だけ聞いて、後は自分と同じような手順や方法で
やっているのだろうと「わかったつもり」になってしまうと、それ以上突っ込
んだ質問は生まれません。実際にはユーザの行動は多種多様です。同じような
2-2 ユーザに弟子入り
35
参考文献
初心者インタビューアのもう 1 つの悪い習性は、物分かりがよすぎること
- 22. 話であっても、全く同じ話は 2 つとないと思っておいて間違いありません。
a文脈をクリック
師匠と弟子方式のインタビューではユーザに「根掘り葉掘り」質問します。
しかし、
「根掘り葉掘り」質問することと、ユーザを「質問攻め」にすること
は異なります。
会 話 例 ❶
:インタビューア :ユーザ
「○○さんは普段、どんなときにカーナビを使うのですか?」
「よく知らない場所に行くときや、遠出するときですね」
「それ以外にカーナビを使うことはないのですか?」
「近場や知っている場所に行くときは使わないですし……ああ、ときど
き、ガソリンスタンドやコンビニを探すこともありますね」
「つまり、○○さんのカーナビの主な利用場面としては、よく知らない場
所へ行くとき、遠出するとき、ガソリンスタンドやコンビニを探すとき、
ということになりますね」
(少し首をかしげながら)まあ、そういうことですかね……」
「
「では次に、○○さんがよく使う機能を教えてください」
「私は本当に基本的な機能しか使っていません。目的地を探してルート案
内開始するだけです」
「経由地設定の機能は使わないのですか?」
「すみません、
“経由地設定”って、どんな機能のことですか?」
インタビューアが説明する。
以下、省略
このインタビューアは事前に用意したフローに沿って質問しています。
「利
用場面→利用する機能→利用しない機能→利用しない理由→ナビの不満点→要
望や改善点……」と矢継ぎ早に質問を切り替え続けるつもりなのだと思います
が、この作戦は遠からず破綻します。こんな調子では 10 分もすれば質問を使
い果たしてしまうでしょう。
36
Chapter 2 インタビュー法
- 24. よ 知ら
く ない場所に行く きや、
と
遠出する きですね。
と
新 く
し できたお店や、
名前だけ知っているよ な
う
場所のこ です。
と
この連休に家族で・
・
・
文脈をクリック
インタビューアの役目とはユーザの話の中から「質問を見つける」こと。
Column
質問は 1 つだけ用意する
阿川佐和子さんは売れっ子の作家ですが、インタビューの達人としても知ら
れています。週刊文春で長年連載している「この人に会いたい」では、その真
価がいかんなく発揮されています。そんな阿川さんにも「初心者」の時代があ
りました。その頃に出会った、ある先輩アナウンサーの言葉が著書の中に記さ
れています。
「インタビューするときは、質問を 1 つだけ用意して、出かけなさい」
――そんなこと、
できるわけないでしょ。と、
私は笑い飛ばしました。
(中
略)でも、その先輩は、こういう解説を付け加えていらっしゃいました。
「もし 1 つしか質問を用意していなかったら、当然、次の質問をその場
で考えなければならない。次の質問を見つけるためのヒントはどこに隠れ
ているだろう。隠れているとすれば、1 つ目の質問に応えている相手の、
答えのなかである。そうなれば、質問者は本気で相手の話を聞かざるを得
ない。そして、本気で相手の話を聞けば、必ずその答えのなかから、次の
質問が見つかるはずである。
」
〈引用元:阿川佐和子:
『聞く力―心をひらく 35 のヒント』
、文藝春秋、2012 年(p53)
〉
ジャーナリズムであれ、マーケティングであれ、ユーザエクスペリエンスで
あれ、インタビューの基本は同じです ――「本気で相手の話を聞く」こと。決
して、用意した質問リストを回答で埋めていくことではありません。
38
Chapter 2 インタビュー法